勉強ノート, 古典

【傷寒論】太陽病 上篇

『臨床応用 傷寒論解説』著:大塚敬節先生 東洋医学選書 発行所:創元社

第一章 太陽病

太陽之為病、脈浮、頭項強痛、而悪寒。

たいようのやまいたる、みゃく ふ、づこうきょうつうして、おかんす。

太陽病を特徴づけるものは、脈浮、頭痛、項強、悪寒である。

<言葉の意味>

脈浮…脈(みゃく)が浮(ふ)。脈診したときに軽く指頭を当てても、すぐにそれとわかり、例えば、木片を水に浮かべて、それを指先で押し下げようとすると、逆に指を突き上げるような浮かび上がる感じがする、そのような脈のことをさす。

頭項強痛…頭痛と項強の意味。頭痛がしたり、うなじが強ばったりするのをいう。

悪寒…俗にいう寒気で、布団をかぶって寝ていても、ぞくぞくと寒いこと。

<解説>  

傷寒論で太陽と呼ぶ病気がどんなものであるか、その大綱を示している。

脈浮、頭痛、項痛、悪寒という症状は、感冒、流感その他の急性熱病の発病の初期にみられるもので、これらの症状があるものを表証があるという。表証とは、からだの表面に現れている病状の意味。

悪寒の前に「而」の文字が入っているのは、悪寒が特に重要な症状であることを示している。

第二章 中風

太陽病、発熱汗出、悪風、脈緩者、名為中風。

たいようびょう、ほつねつあせいで、おふう、みゃく かんのものは、なづけて ちゅうふうとなす。

太陽病の中で、発熱とともに汗が出て、悪風があり、脈が緩であるものは、中風と名づける。

<言葉の意味>

悪風…悪寒の軽症で、あたたかくしていればぞくぞくしないが、風に当たったりすると寒気を覚えるというもの。

脈緩…脈が緩(かん)というのは、緊という脈に対してゆったりとした脈で、病状が緩勢であることを意味する。

汗出で…とあるのは、流れるように汗が出るのではなく、汗ばむ程度のこと。自然に出る汗。

<解説>

傷寒論の読み方の基本に、一度説明した(前の)条文の内容は省略して続きを説明する、というものがある。たとえば「太陽病」とあれば「脈は浮で頭痛がある」ということは当然のことであるので省略し、いちいち同じことを書き直さない。なので、太陽病とあれば脈浮、頭痛、項強、悪寒があるので、この第二章の意味としては、『太陽病の中で、発熱とともに汗が出て、頭痛または項痛を訴え、悪風があり、脈が浮(ふ)で緩(かん)であるもの、これを中風と名づける。』

第三章 傷寒

太陽病、或已発熱、或未発熱、必悪寒、體痛、嘔逆、脈陰陽倶緊者、名曰傷寒。

たいようびょう、あるいはすでにほつねうし、あるいはいまだほつねつせず、かならずおかんし、たいつう、おうぎゃく、みゃく いんようともに きんのものは、なづけてしょうかんという。

太陽病の中で、すでに発熱していたり、まだ発熱していなかったりのとき、必ず悪寒、体の痛み、吐き気があり、脈診では陰陽どちらで診察しても脈が緊であるときに、傷寒という。

<言葉の意味>

體痛(たいつう)…体が痛むこと。インフルエンザ、急性肺炎、チフスなどでは、発熱の比較的初期に、方とか、腰とか、四肢などが痛むこと。

嘔逆(おうぎゃく)…腹の法からむかむかとして吐きそうにつきあげてくる状態。

陰陽倶…(脈診するとき、指を軽くあてがい陽をうかがい、指を深く沈めて陰をうかがう。)指を軽く当てても深く沈めてもともに緊の脈を呈すること。

<解説>

傷寒の初発の病状、病勢を述べている。傷寒は太陽病の中でも悪性で重篤である。第二章の中風の熱が浅くて発熱しやすいのに反して、傷寒の熱は深くかくれて容易に発熱しにくいことを暗示している。中風では変化が表にだけとどまっているのに対し、傷寒では変化が裏にまで及んでいる。

第一章で述べたように、悪寒は発熱に先行するから、熱がまだ出ない場合も、悪寒があり、熱が出ている場合でも悪寒がある。

第四章 桂枝湯

太陽中風、脈陽浮而陰弱、嗇々悪寒、淅々悪風、翕々発熱、鼻鳴、乾嘔者、桂枝湯主之。

たいようのちゅうふう、みゃく ようふにしていんじゃく、しょくしょくとしておかんし、せきせきとしておふうし、きゅうきゅうとしてほつねつし、びめい、かんおうのもの、けいしとう これをつかさどる。

太陽病の中風は、脈を軽くさわると浮であり、深くしずめてさわる脈が弱く、からだがちぢこまるような悪寒がし、みずを浴びせられたような悪風がし、体に熱が集まり、鼻づまりで鼻が鳴り、吐きそうにからえずきし、このようなときは桂枝湯を主治とする。

<構成生薬>桂枝湯=桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗

<言葉の意味>

嗇々(しょくしょく)…悪寒を形容する言葉。寒さのために身体をちぢめている状態。

淅々(せきせき)…悪風を形容する言葉。水をそそぎかけられるような状態。

翕々(きゅうきゅう)…集まるの意味。体表に熱が集まっていること。

鼻鳴(びめい)…かぜをひいたときに鼻炎を起こして鼻が鳴る。

乾嘔(かんおう)…吐きそうにするが物は出ない。からえずき。

<養生>

熱いうすいお粥を一合あまりすすって、布団をかぶって温め、全身から汗がにじむようにするという。流れ出るほどの汗を出してはいけない。もし一服で汗が出てよくなったら、あとは飲む必要がない。また、果実、冷たい飲み物、ねばっこいもの、ぬるぬるしたもの、肉、うどん、にんにく、にら、ねぎ、酒、乳製品、悪臭のあるものは食べない方が良い。

第五章 桂枝湯

太陽病、頭痛発熱、汗出悪風者、桂枝湯主之。

たいようびょう、づつうほつねつ、あせいでおふうのものは、けいしとうこれをつかさどる。

太陽病で、頭痛発熱、汗が出て、悪風があれば、桂枝湯を主治とする。

<解説>

頭痛、発熱、汗出で、悪風の症状があれば、脈を考慮するまでもなく桂枝湯を選ぶ。

この場合の「汗出で」は、表が虚して自然に汗が出ているために、桂枝湯で表を補ってやると体表の機能が回復して正常に還るので汗がやむ。なので桂枝湯は解肌(げき)の剤とも呼ばれる。解肌は、肌を和解するという意味である。

桂枝湯は発汗剤ではない。体表の機能が衰えている時にこれを鼓舞すし、表の虚を補う目的で用いる。

第六章 桂枝加葛根湯

太陽病、項背強几几、反汗出、悪風者、桂枝加葛根湯主之。

たいようびょう、こうはいこわばることきき、かえってあせいで、おふうのものは、けいしかかっこんとうこれをつかさどる。

太陽病で、項背が強ばって動かしにくく、(葛根湯証のように汗が出ないものかと思ったが)かえって汗が出ていて、悪風するものは、桂枝加葛根湯が主治である。

<構成生薬>桂枝加葛根湯=葛根、芍薬、生姜、甘草、大棗、桂枝

<言葉の意味>

項背強几几…項から背にかけて強ばること。几几(きき)は机机と同じで、重くて動かしにくいの意。几几を八八と書いて「しゅしゅ」と読ませている人がいて、「この八八は羽の短い鳥がまさに飛ばんとして羽をひろげて首をのばしたかたちであるから、首の凝る状態をいったものだ」と説明している。ところが困ったことに、金匱要略に、「太陽病、その証備わり、身體強ばること几々然」という章がある。身體強ばる時に首をのばすというのはおかしい。それで大塚敬節先生は几几(きき)とよみ、重くて動かしにくい意にとる。

反汗出…項背強ばる場合には、葛根湯証のように汗が出ないのを通例とするが、それに反して、自然に汗が出ているので、「かえって」という。

第七章 桂枝湯

太陽病、下之後、其気上衝者、可與桂枝湯。

たいようびょう、これをくだしてのち、そのき じょうしょうするものは、けいしとうをあたうべし。

太陽病で、これを(調胃承気湯などの下剤を用いて)下して後、その気が上衝する者は、桂枝湯を与える。

<言葉の意味>

下之後(これをくだしてのち)…下剤を用いて下したところ、それまでの証が変化した場合をさす。

<解>

太陽病で、悪寒、発熱、脈浮というような表証のある場合は、下剤で攻めてはならない。たとえ腹痛、便秘の状態があっても、表証があればまず桂枝湯を用いて表証を治し、表証がなくなってから腹痛、便秘を治すのが傷寒論の一般法則である。ところで表証があっても、それをそのままにしておいて下剤を用いなければならないような急激な裏証が現れた時には下剤を用いて裏を攻めなければならない。今、下すべき証があって、下したところ、下すべき証は消え去り、証が変化して気が上衝するようになった。この上衝は、桂枝湯を用いる目標であるから、桂枝湯を与えよ。

★桂枝湯の薬効を知るうえで大切だが、臨床上では「下してのちに桂枝湯を用いる」ような例を経験することは少ない。

第八章 壊病

太陽病、三日、已発汗、若吐、若下、若温針、仍不能者、此為壊病。

たいようびょう、みっか、すでにあせをはっし、もしくはとし、もしくはくだし、もしくはおんしんし、なお げせざるものは、これを 壊病(えびょう)となす。

太陽病で、発病初期の二、三日間(一般に発汗を行うべき時期であるからといって)に、(その証を確認しなくて)(発汗せしめてならない場合に)発汗させ、(それで治らないので)(いたずらに)(吐かせてならない場合に)吐かせたり、(下してならない場合に)下したり、また温針などで発汗を促し、病気が治らず、病証が崩れたものを壊病という。

<言葉の意味>

温針(おんしん)…この方法は古く滅び、今日には伝わっていない。発汗を促すために足の裏に熱した鍼をした?(松田邦夫先生講演で、その痕跡のようなものを一度だけ見たとのお話)

壊病(えびょう)…病証が崩れて、正証をもって呼ぶことができないもの。

<解>

ここに挙げてある汗、吐、下、温針は、一人の患者さんにすべてを行うわけではなく、この中のどれを施しても、それが誤治であれば壊病となるおそれがある。

第九章 桂枝加附子湯

太陽病、発汗、遂漏不止、其人悪風、小便難、四肢微急、難以屈伸者、桂枝加附子湯主之。

たいようびょう、あせをはっしてついにもれやまず、そのひとおふうし、しょうべんかたく、ししびきゅうし、よってくっしんしがたきものは、けいしかぶしとうこれをつかさどる。

太陽病で(桂枝湯の証を誤信して)、(麻黄湯などで)発汗させたところ、遂に(薬効が消えた後までも)汗が漏れやまず(汗が流れるほどに出て止まらなくなり)、そのために患者は悪風を訴え、小便が快通せず、四肢の筋肉がひきつれて屈伸が困難になった。これは(もはや桂枝湯証ではなく)、桂枝加附子湯の主治である。

<構成生薬>桂枝加附子湯=桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗、附子

<言葉の意味>

小便難…小便が快通せず、出にくい。

四肢微急…上下肢が軽くひきつれる。

<解>

壊病の例を述べている。

第十章 桂枝去芍薬加附子湯

太陽病下之後、脈促胸満者、桂枝去芍薬湯主之。若微悪寒者、桂枝去芍薬加附子湯主之。

たいようびょう、これをくだしてのち、みゃくそく、きょうまんのものは、けいしきょしゃくやくとうこれをつかさどる。もしびおかんのものは、けいしきょしゃくやくかぶしとうこれをつかさどる。

太陽病を(誤って)下した後、脈促、胸満の者は、桂枝去芍薬湯(桂枝湯の中の芍薬を除いたもの)が主治となる。もし微悪寒がある場合は、(その悪寒は表証の悪寒ではなく陰証の悪寒であるから)、(附子を加えた)桂枝去芍薬加附子湯の主治である。

<構成生薬>

桂枝去芍薬湯=桂枝、甘草、生姜、大棗

桂枝去芍薬加附子湯=桂枝、甘草、生姜、大棗、附子

<言葉の意味>

脈促…促は急促の促で、浮(ふ)数(さく)に似て短促な脈。

胸満…邪気の上昇によって胸の中が満でもだえる

微悪寒…微は幽微の微で、表証の悪寒ではなく、裏証の悪寒であることを示さんがために微がついている。

<解>

壊病の例。

第十一章 桂枝麻黄各半湯

太陽病、得之八九日、如瘧状、発熱悪寒、熱多寒少、其人不嘔、清便欲自可、一日二三度発、以其不能得少汗出、身必痒、宜桂枝麻黄各半湯。

たいようびょう、これをえて はっくじつ、ぎゃくじょうのごとく、ほつねつおかんし、ねつおおく かんすくなく、そのひとおうせず、せいべん じかせんとほっし、いちにち にさんどはっす、その すこしもあせいずるを得(う)るを能(あた)わざるをもって、しん かならずかゆし、けいしまおうかくはんとうによろし。

太陽病にかかって八、九日もたっているのに、瘧(マラリヤ)の熱型のような発熱(往来寒熱のような熱と悪寒が交替)があり、熱が出ている時間が多く、悪寒のある時間は短く、その人が嘔吐(少陽病期に代表する症状である嘔吐)がなく、大便は自然に正常に出て(陽明病に代表されるような便秘はなく)、一日に二、三回、熱の発作があり、汗が出すことができなくて、からだのかゆみを訴える、そのようなときは、桂枝麻黄各半湯を処方するといいでしょう。

<構成生薬>

桂枝麻黄各半湯 =桂枝湯1/3+麻黄湯1/3 =桂枝、芍薬、生姜、甘草、麻黄、大棗、杏仁

<言葉の意味>

(ぎゃく)…おこり。マラリヤ。

清便…大便のこと。清は厠のこと。

自可…自調。便秘も下痢もせず性状であること。

<解>

太陽病にかかって八、九日も治らない場合は、普通一般の時は邪が裏に入って少陽病あるいは陽明病もしくは太陰病、少陰病、厥陰病などに変化するのであるが、この場合は、病勢が緩慢で、八、九日もたつのに依然として太陽病にとどまっている。しかし太陽病の熱型が崩れて、少陽病の熱型である往来寒熱に似てきた。その状態を「瘧状のごとく」と表現している。すなわちマラリアのように、熱と悪寒が交替する。ところで、熱が出ている時間が多く、悪寒のある時間は短い。このような場合に、診察の粗漏な医師は、この熱型と発病後の日数がたっているという点に騙されて少陽病と診断してしまい、小柴胡湯を与えるような誤治をよくやるものである。また発病日数に重きをおき、八、九日は陽明裏実を呈する頃であるから、気の早い医師はいい加減な診断で陽明病と思い承気湯のようなもので下すかも知れない。しかし「その人嘔せず」とあるので、少陽病ではないことが暗示されている。また「清便自可せんと欲す」とあり便秘せずに自調しているということは、陽明病ではない。そこで桂枝麻黄各半湯は、熱がマラリヤに似て熱の出ている時間が長く、悪寒の間が短く、その発作が一日に二、三回もあって、汗が出ないためにからだの痒いものを目標として用いる。夜になって布団に入ってからだがあたたまると皮膚のかゆみがでるという青年に桂枝麻黄各半湯が効いた大塚敬節先生の経験談あり。

第十二章 風池、風府

太陽病、初服桂枝湯、反煩不解者、先刺風池風府、却與桂枝湯則癒。

たいようびょう、はじめけいしとうをふくし、かえってはんしてげせざるものは、まずふうち、ふうふをさし、かえってけいしとうをあたうればすなわちいゆ。

太陽病で、初めに桂枝湯を与えて、かえって煩して良くならないときは、まず経穴の風池と風府を刺してから桂枝湯を与えると桂枝湯の効力が強化して治る。

<言葉の意味>

風池、風府…鍼灸のツボで、風池は後頭部の髪の生え際のところの陥んだ部位。風府は後頭結節の下の凹んだ部位。

<解>

桂枝湯証に桂枝湯を与えて、かえって煩苦が増したときには、まず経穴の風池と風府を刺してから桂枝湯を与えると桂枝湯の効力が強化して治る。

この場合の刺すというのは、瀉血の意味であろう。

第十三章 桂枝二麻黄一湯

服桂枝湯、大汗出、脈洪大者、與桂枝湯、如前法。若形如瘧、一日再発者、汗出必解、宜桂枝二麻黄一湯。

けいしとうをふくし、おおいにあせいで、みゃくこうだいのものは、けいしとうをあたうることぜんぽうのごとくす。もしかたち、ぎゃくのごとく、いちにちにさいはつするものは、あせいでてかならずげす、けいしにまおういっとうによろし。

桂枝湯を服し、大いに汗が出て、脈が洪大の者には、桂枝湯を与えるというのは前に述べたとおりである。もし熱の型方がマラリヤのように一日に二回も発作があれば、桂枝二麻黄一湯がよい。これを飲むと汗が出てくる。

<構成生薬>桂枝二麻黄一湯 =桂枝、芍薬、麻黄、生姜、杏仁、甘草、大棗

<言葉の意味>

…マラリヤ

<解>

桂枝湯のような穏やかな薬を用いても大量の汗があるほどの患者は、相当な虚証であるから、脈が洪大というのは一見矛盾があるが、洪大の脈というのは、実証に限らず虚実がある。

「汗出必解」の四文字は、桂枝二麻黄一湯のあとに書くべきだが、傷寒論にはこのような書き方をすることが他にもある。

第十四章 白虎加人参湯

服桂枝湯、大汗出後、大煩渇不解、脈洪大者、白虎加人参湯主之。

けいしとうをふくし、おおいにあせいでてのち、だいはんかつげせず、みゃくこうだいのものは、びゃっこかにんじんとうこれをつかさどる。

桂枝湯を服用して、大いに汗が出たのち、大煩渇(ひどい口渇)がよくならず、脈が洪大であれば、白虎加人参湯が主治である。

<構成生薬>白虎加人参湯=知母、石膏、甘草、粳米、人参

<言葉の意味>

大汗出後…大いに汗が出たために、それまでの証が消えて、他の証になった。

大煩渇(だいはんかつ)…ひどくのどがかわくこと。著しい口渇。

<解>

桂枝湯を服用して、大いに汗が出て、表証が去って、裏熱を醸して、ひどく口渇を訴えるようになった。すなわち太陽病より陽明病に転移した。口渇が著しく、熱があり、脈が洪大であれば白虎加人参湯が主治である。

白虎加人参湯については別項目で詳しく追記予定。

第十五章 桂枝二越婢一湯

太陽病、発熱悪寒、熱多寒少、脈微弱者、不可発大汗、宜桂枝二越婢一湯

たいようびょう、ほつねつおかん、ねつおおくかんすくなく、みゃくびじゃくのものは、おおいにあせをはっすべからず、けいしにえっぴいっとうによろし。

太陽病で発熱悪寒があり、熱の方が多くて寒の少ないものは、桂枝二越婢一湯を用いるがよい。しかし脈が微弱であれば、大いに汗を出すのはよくない。

<構成生薬>

桂枝二越婢一湯…桂枝、芍薬、麻黄、甘草、大棗、生姜、石膏

=桂枝湯+越婢湯(越婢湯は傷寒論には出てこない。金匱要略に出てくる)

大青龍湯(麻黄、桂枝、甘草、杏仁、生姜、大棗、石膏)の杏仁を芍薬におきかえたものといえる。

大青龍湯よりもやや虚証に用いる。

第十六章 桂枝去桂加茯苓白朮湯

服桂枝湯、復下之、仍頭項強痛、翕々発熱、無汗、心下満微痛、小便不利者、桂枝去桂加茯苓白朮湯主之。

けいしとうをふくし、またこれをくだし、なおづこうきょうつう、きゅうきゅうほつねつ、あせなく、しんかまんぴつう、しょうべんふりのものは、けいしきょけいかぶくりょうびゃくじゅつとうこれをつかさどる。

桂枝湯を服し、(よくならないので)これを下し、なお頭痛項強があり、発熱が続き、汗が出ず、心下満微痛という状態になり、小便不利の者は、桂枝去桂加茯苓白朮湯が主治である。

<構成生薬>桂枝去桂加茯苓白朮湯…芍薬、甘草、生姜、白朮、茯苓、大棗

<言葉の意味>

翕々(きゅうきゅう)…集まるの意味。体表に熱が集まっていること。

<解>

この章は、平素胃腸の虚弱な人が感冒のような外邪におそわれて、疑似桂枝湯証、疑似詰胸証を表すものの治し方を述べている。裏が虚して、表証に似た症状を示している。これを桂枝湯証と誤認して桂枝湯を服したところ、よくならない。そこで、頭項強痛と心下満微という症状が詰胸の証に似ているので、大陥胸丸のごときもので下した。実はもともと胃の虚があって心下満して微痛し、小便不利の状を示しているのであるから、薬方で下してもよくならないばかりでなくかえってますます裏が虚してくる。そこでまず裏を補って、裏の水をさばくことを考えなければならない。そこで、表に働く桂枝をひとまず去って、裏の水をさばく茯苓と白朮を加えた桂枝去桂加茯苓白朮湯を用いるのである。これを与えれば尿量が増加して心下に停滞した水が除かれて腹満が去り、体力が旺盛となれば表を治す方剤を持ちなくてもよくなるであろう。もしも依然として表証が残存していたならその時に改めて表を目標にして治方を施す。

頭痛と項強をみて、すぐに葛根湯を処方することは誤りであり、桂枝去桂加茯苓白朮湯苓桂朮甘湯真武湯によって心下の水をさばくことによって治るものの多いことを忘れてはならない。

第十七章 桂枝湯 甘草乾姜湯 芍薬甘草湯 調胃承気湯 囘逆湯(四逆湯)

傷寒、脈浮、自汗出、小便数、心煩、微悪寒、脚攣急、反與桂枝湯。得之便厥、咽中乾、煩躁、吐逆者、作甘草乾姜湯、與之。若厥癒、足温者、更作芍薬甘草湯、與之。若胃気不和、譫言者、少與調胃承気湯。若重発汗、復加焼針、得之者、回囘逆湯主之。

しょうかん、みゃくふ、じかんいで、しょうべんさく、しんぱん、びおかん、あしれんきゅうするに、かえってけいしとうをあたう。これをえてすなわちけっし、いんちゅうかわき、はんそう、どぎゃくのものには、かんぞうかんきょうとうをつくりて、これをあたう。もしけついえ、あしおんなるものには、さらにしゃくやくかんぞうとうをつくりて、これをあたう。もしいきわせず、せんごのものには、すこしくちょういじょうきとうをあたう。もしかさねてあせをはっし、またしょうしんをくわえて、これをうるものは、かいぎゃくとうこれをつかさどる。

<単語の意味>

心煩(しんぱん)…自覚症で、胸を苦しい。

便(すなわち)…そのまま、すぐに、の意味。

厥(けつ)…厥逆とか、厥冷とかの厥で、からだが冷たくなること。

咽中乾…のどがカラカラに乾くこと。

煩躁(はんそう)…煩は自覚症状で、苦しい状態。躁は手足をしきりに騒がしく動かして苦しむ状。

吐逆…吃逆(しゃっくり)に苦しんで吐く状態をいったもの。

胃気不和(いきふわ)…下痢してない虚の状態のあること。

譫言(うわごと)…うわごと。

焼針…古代に行われた発汗の法。現在には伝わってなくどんなものか不明。

囘逆湯…囘と四が似ているので、囘を四に誤り、四逆湯として一般に伝わった。

<解>

(傷寒の誤治が、その影響するところ甚大で、しばしば危急の状態に陥る実例を示している。)

傷寒で、脈が浮で、自汗があり、桂枝湯証のようだったが、これに小便の頻数、胸内苦悶、足の攣急という症状が加わり、これは単純な表証ではない。誤って桂枝湯を与えてしまったところ、すぐに手足が厥冷し、のどは乾燥して唾液の分泌がとまり、胸苦しく、手足をあちこちと動かしてもだえ、しゃっくり上のはげしい嘔吐を起こすようになった。この危急な状態を救うには、甘草乾姜湯を与えたところ、厥冷が治って足が温かになった。しかし足の攣急は初めから依然として存在しているから、そこで改めてさらに芍薬甘草湯を与えた。すると足の攣急は治って、伸びるようになった。そこでもし、足の攣急が緩んでのちに胃腸機能の失調によって便秘し、うわ言を言うようになれば、これは陽明病証である。大いに下すべき小児はなっていないので、調胃承気湯を与えて便通が良くなる。もしも桂枝湯を与えた上に、さらに発汗剤を用いたり、また焼針で発見せしめたりしたために、脈微、四肢厥冷などを起こしたものは、甘草乾姜湯に、さらに附子を配剤した囘逆湯の主治である。

<構成生薬>

桂枝湯…桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗

甘草乾姜湯…甘草、乾姜

芍薬甘草湯…芍薬、甘草

調胃承気湯…大黄、甘草、芒硝

囘逆湯(四逆湯)…甘草、乾姜、附子

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