- 「傷寒論」とは
- 「傷寒論」への勝手な誤解
- 松田邦夫先生の「傷寒論解説」講義
- 『臨床応用 傷寒論解説』著:大塚敬節先生
- 漢方専門医の受験対策としての「傷寒論」
- 「傷寒論」のおすすめ解説書
1.「傷寒論」とは
漢方を勉強するのに最も有名な書物でしょう。
Wikipediaの記事にはこう書かれています。一部をコピペさせていただきます。
『傷寒論』(しょうかんろん)は、後漢末期から三国時代に張仲景が編纂した伝統中国医学の古典。内容は伝染性の病気に対する治療法が中心となっている。
「三陰三陽篇」では、病気を太陽(たいよう)・陽明(ようめい)・少陽(しょうよう)・太陰(たいいん)・少陰(しょういん)・厥陰(けついん)の6つの時期にわけ、それぞれの病期に合った薬を処方することが特徴的である。
- ざっくりまとめるとこのような感じです。
- 三国時代という大昔に、中国で書かれた、感染症の治療法の医学書。
- 病気にかかってからの時期を、三陰三陽という6つの時期(六病位)に分けた考え方。
ちなみに、現在処方される漢方エキス剤の全てがこの本に載っているわけではありません。勉強し始めの頃、自分が使っている漢方薬が、傷寒論に載っていなくてがっかりしたことがあります。え?そんなことにがっかりしたのって私だけ?
2.「傷寒論」への勝手な誤解
漢方の講演会などで知り合った先輩方に「漢方を勉強するにはどうしたらよいですか?」と質問すると、「傷寒論を読むといいよ」と教えていただくことが多かったです。
「傷寒論を読む会があるのだけれど来る?」とお誘いをいただいたこともありました。
残念ながら会場が遠方で、開始時間も早かったので、参加できませんでした。私は小児科の町医者ですので、保育園帰りの患者さんが多い夕方の外来を早くに切り上げて勉強会に行くことには抵抗がありました。しかし、少しだけでも参加しておけばよかったと後悔しています。
そもそも「傷寒論」を読むだけなら、がんばれば参考書など自分でたくさん読めばそれで良いのでは?と思っていました。まったくもう大いなる勘違いでした。
当時、私の愚かな理解では、「傷寒論って、大昔に腸チフスが流行した時の治療法で、現代の治療に当てはめるのは難しいわよね?」でした。なんて恐ろしい発言をしていたのでしょう!誰にも言っていなくて良かったです。今、このブログで発言してしまいましたが、皆さま聞かなかったことにしてください!とにかく昔のことなのでお許しください。
というわけで、もし皆様が「傷寒論」を学ぶ機会がありましたら、そのチャンスを逃さないようにしていただきたいと思います。
3.松田邦夫先生の「傷寒論解説」講義
松田邦夫先生が傷寒論の講義をしてくださるのを受講する幸運を得ました。
漢方医で有名な新見正則先生の企画で、帝京大学病院の講堂で、月に1度、計10回。一年かけて傷寒論の講義をしてくださいました。主催はツムラ株式会社さん。素晴らしいご講演でした。
皆様もご存知の通り、松田邦夫先生は日本東洋医学会会長も務められた、東洋医学会の重鎮です。大塚敬節先生の最後の内弟子でいらっしゃり、ご講演の中で大塚敬節先生のエピソードをたくさんお話しくださるので、それをお聞きできたことは貴重でした。
そして、内容もさることながら、語り口に心を奪われました。条文を漢文で読まれるとき、また口語訳で語られるとき、これまでに何十年も、何百回、何千回もこの条文を読んでいらしたことを想像させる流ちょうな語り口なのです。まるで人間国宝の落語を拝聴している心持ちになり、感激いたしました。
松田先生は「漢方の条文は師匠の語る通りに発音するべきである。」と、おっしゃいました。たとえば「発熱」は「はつねつ」ではなく「ほつねつ」、「几几」は「しゅしゅ」ではなく「きき」と読むべきである、と。イントネーションも含め、師匠の発音する通りに発音するべきである、とおっしゃったことに、私は溜飲がおりました。条文は本によって読み方が色々とあり、どれが正しいのか悩んでいたからです。松田先生のお言葉にすっきりしました。
松田邦夫先生の御講演については、また別の項目で書きたいと思います。
4.『臨床応用 傷寒論解説』著:大塚敬節先生
たくさんの解説本がありますが、私が最初に手に取ったのが、幸運にもこの本でした。
もともとは父が持っていて、私が父に「しょうかんろんって本、うちにある?」と聞いたところ貸してくれたのがこの本です。漢方専門医の受験を目標にしたときに自分で新しく買い直しました。
『臨床応用 傷寒論解説』 著者:大塚敬節 発行:創元社
1966年5月1日第一版発行 2012年2月第一版第31刷発行(私が購入したもの)

一部を書き写させていただきます。
序より『傷寒論を読み始めて、間もなく四十年になろうとしている。~古人は「漢方医学の研究は、傷寒論に始まって傷寒論に終る」といったが、私も死ぬまでこの研究を続けて行きたいと思っている。』
序説より『傷寒論に匹敵する医書は空前であり、また絶後であろう。』
序節より『永富独嘯庵(ながとみどくしょうあん)は「およそ、古医道を学ぶものは、先ず傷寒論を熟読するがよい。そのあとで、よい師匠について、親しく、これを事實(実際に)に試みること、五年、十年、その間やすまずに深い研鑽を重ねるならば、自然に円熟の域に達する。それからのちに、漢、唐以降の医書を読むならば、その書物が信ずるに足る良書か否かが、鏡に向かって美人と不美人とを区別するほど、はっきりする。」』
序説の1ページ目に、空前絶後という言葉を見つけて「空前絶後のー!」と絶叫する芸人さんを思い浮かべました。「うおー!傷寒論を読みたくなってきたー!」と、なりませんか?
5.漢方専門医の受験対策としての「傷寒論」
とはいえ、受験前なのです。時間がないのです。傷寒論を読むのはちょっと億劫…。構成生薬とかを完璧に覚えないといけないし、症例問題も…と、色々と言い訳をして、結局は、傷寒論の中でも重要そうなところとか、知っている方剤のところの拾い読みだけしかしていませんでした。
ところがところが!緑の問題集を何回目かに解いていると、傷寒論からの出題が多いことに気づきました。(遅いー!)つまり受験に必要だったのです。
そして、傷寒論は通読することが重要であることに気づきます。拾い読みではなく、最初から最後まで、太陽病から厥陰病まで、通読することが大切なのです。
そして専門医受験の2週間前、傷寒論を拾い読みばかりしてきた自分が恥ずかしくなりました。
「漢方専門医を受験する中で、傷寒論を通読していないのはきっと私だけだ!これでもし合格したとしても漢方専門医の資格はないような気がする!恥ずべきことだ!」
というわけで、意を決して通読しました。受験2週間前なので超特急な読み方しかできませんでしたが。難解な部分もありましたが、わからないなりにも通読しました。通読を開始したのは土曜の午後から。土曜日の診療は午前までなのでが、その外来が終わってからすぐに近所のファミレスに行って読み始め、昼食を食べ、夕食を食べ、徹夜で読み、朝食を食べ、昼食を食べ、日曜の夕食を食べる頃にようやく読み終わって家に帰りました。30時間くらいかかって読んだことになります。素晴らしい本を読み切った感激で、疲れは吹っ飛びました。(うそです、バタンキューで寝ました)
昨日、久しぶりに件のファミレスに行ってみたら、新型コロナウイルス対策のため、120分以上の滞在は禁止、とありました。今はもう「〇〇が終わるまで帰れまテン!」はできないのですね。この傷寒論通読だけでなく、受験勉強には24時間営業のファミレスには大変お世話になりました。自宅では家族(犬猫8匹と人間1人)がいるので勉強に集中できなかったからです。勉強の環境についてはまた別の項目でお話しします。
受験前の突貫通読を反省し、「時間のあるときにもっときちんと、ゆっくり傷寒論を通読したい!」と思いましたが、のどもとすぎればなんとやらで、受験が終わったらちっとも読んでいませんでした。今、このブログを書くにあたり、傷寒論をまた読み始めています。漢方をこれから勉強する先生方のために、と始めたブログでしたが、自分のためになっています。感謝いたします。
6.「傷寒論」のおすすめ解説書
というわけで、傷寒論解説書をお読みください。私は大塚敬節先生の解説本をバイブルにしておりますが、漢文、旧漢字、古い言い回しなどの部分で若い先生方は抵抗があるかも知れません。ちなみにアマゾンでは現在「一時的に在庫切れ」になっていました。
現代語の中では、高山宏世先生の『傷寒論を読もう』がおすすめです。家庭教師先生からの推薦書です。

参考図書の話はまだまだ続きがあります。金匱要略も読まなければなりません。
しかし次回は違う話をします。漢方専門医の広告についてお話しします。
いやその前に、まず認定医についてお話しします。それではまた。
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